*2008年版 COLDSTEEL カタログより
Andrew Demko 設計開発の 『Tri-Ad Lock 』がコールドスチールのカタログにて紹介されたのは 2008年のことである。この強靭なロック機構は今日のコールドスチールを語る上で(語らんでも!)欠かせないポイントとなることは誰もが知るところでございます。さて、今回はボイジャー絡みの4回目、その強靭なロック機構の効能について書いてみますが、これも既に書き尽くされた感がある分野なのでホンマにお好きな方または読み切る不屈の根性をお持ちの方のみ立ち読みしてすぐに忘れてくだされ。
『Tri-Ad Lock の秘密は正圧と負圧を受け止め伝達分散吸収させる各部の機能にあります』
コールドスチールの方向性を決定づけた Andrew Demko の 『Tri-Ad Lock 』はフォールディングナイフのロックとして極めて強靭なことで有名ですが、その強さの要となるのは、ロックにかかる垂直方向の正圧と負圧の負荷を分散させる「ストップピン」の採用です。このストップピンは、正圧・負圧 (ブレードにかかる上下からの圧力) をすべて受け止め、それをハンドルや金属製ライナーに伝達して、その全てでより効果的に分散吸収できるようにしています。
正圧はブレードのカッティングエッジに対して掛かる力。包丁をまな板に当てた時にまな板や食材からブレードへと伝わる力です。上の図ではピボットを軸にブレードが時計回りに動こうとします。通常のバックロックではロックバーの先端がこの正圧を受け止めますが Tri-Ad Lock はブレードとロックバーの間に位置するストップピンがそれをガッチリと受け止めます。さらに、
❶ ブレードタングに設けられた凹部がこのストップピンを確実に受け止め摩耗や裂傷に対する耐久性を高める役目も担っています。更に正負両方の圧に対してブレードのガタツキを無くし、ストップ ピンはブレードからの圧力を緩衝し再分散させます。
コールドスチールによる実演。ブレードを上から叩く時に掛かる瞬間的な負圧と角材に押し当てられた時に下から伝わる正圧。この実演は正負両方の圧に対するロックやハンドルなどの強度実証なのだ。
❷ロックとブレードのタングの全表面がぴったりと合う。
わずかに角度の付いたロックは、圧力がかかったときにロックを外側ではなく内側に押し込む傾向があります。つまり深く噛み合うということ。
ブレードの背を叩いた時などに掛かる強い負圧。上の図ではブレードタングは反時計回りに回転しようとし、それと噛み合うロックバー先端部を前方に押し出そうとする。しかしストップピンがそれを押しとどめ圧を金属製のライナーやハンドルに分散させます。
コールドスチールによる実演の中で手に握っただけのナイフのブレードの背を叩く場面がありますが、これは負圧100%!宙に浮いた状態では正圧は掛かっていません。この時かかる瞬間的な負圧はブレードからロックバーへ、それをストップピンが受けとめ更にライナーやハンドルに伝達分散吸収されてロックバーとそのピボットが故障するのを防ぎます。
❸ 通常の摩耗に応じて、時間の経過とともにロッカーがノッチのより深いところまで落ち込むことができるように、余分なスペースが設けられています。このブレードとロックバーの隙間について、ブレード後端のノッチはロックバーの先端より深めに作られておりこのブレードとロックバーとの隙間も Tri-Ad Lock の自己調整に一役買っています。負圧によるロック系のパーツの摩耗はロックバーが前方に微動することによって前後の補正を行い解決されますが、❸の隙間は正圧によるブレード後端の摩耗を補う役目があると考えられます。仮にストップピンに接するブレードタングの凹部分が摩耗してブレードにガタツキが生じた場合にロックバーが自己調整で深く噛み合う上下の補正を行うものと考えられます。
❹ ロックバーのピンホールは、自己調整ができるように両側に余分なスペースが設けられています。例えばブレードの背を叩いた時などに掛かる負圧は❷で書いたようにブレードを反時計回り、ロックバーを前方に押しつけます。この様な強い圧を受け続けた場合、ロックバー先端部(ストップピンに当たる面)やブレードタングのノッチとの接面が摩耗することがあるかもしれません。この時、ロックバーに設けられたロッカーロックピンホールの「ゆとり」が役に立ちます。ロックバーはロックスプリングにより常に前方へと押されており仮にロックバー先端部が摩耗してもこの「ゆとり」分だけロックバーを前方に微動してくれます。(Tri-Ad Lock の自己調整機能)これにより常に確実なロックが約束されます。
摩耗し減った分だけ微動して同じ噛み具合にもっていく、ロックバーのピンホールが地味〜に支えている『にゃるほど〜』的な構造ですね。
ガラス繊維と高密度のポリマーで強化された Griv-Exハンドルと熱処理された6061アルミニウムライナー。これも Tri-Ad Lock を支える重要なパーツなのです。
Tri-Ad Lock は正圧・負圧の両方を受け止めるストップピンとそれを囲むようなブレード後端の凹、ブレードタングとロックバーの噛み合い部の計算されたゆとり、部品が摩耗した場合に微動して自己調整するロックバーのピンホール形状、ガラス繊維で強化された高密度のポリマー製ハンドルと金属製ライナー、これらが互いに支え合って強靭なロック強度を実現しているのです。
さて、くどくど更にクドクドと書いてきた今回の自由研究もこれにて終わりです。皆さまお疲れ様でご機嫌よう。
ponio
追記
アタシがコールドスチールのフォールダーの中でデザイン的に欲しかったのは Ultimate Hunter 35VN でしたがそれを選ばず(欲しい欲しいノートには残留)、ボイジャーを選んだのも金属製ライナーの有無がポイントでした。同じく同社の AMERICAN LAWMAN もまた金属製ライナーの有無で今回は見送りました。
あたしの手首ほどの太さの伐採木を短く切って薪の代わりにします。その太い枝には至る所にまるでドリルで開けられた様なきれいな丸い穴が開いておりました。中にいるのはカミキリムシか? とボイジャーで手加減しながらバトンして中を確かめる。この枝はほぼ完全に乾燥していて硬いため最初にノコで横一文字に切れ目を入れてから上からバトンで割っていきます。ブレードの上から瞬間的にかかる負圧と硬く締まった木質からの抵抗(正圧)が拮抗するシーンです。
ほぼ乾燥しきった硬くしまった伐採木でしたが、もちろんロックが外れることはなくハンドルにもブレードにも目に見えるダメージはありませんでした。今回、実用における Tri-Ad Lock の頑強さを証明してくれましたがテストはこの辺まで。これ以上の太さの木材には使い慣れた一枚物のフィクストブレードを使おうと思います。酷な使用に耐えられることと安心感はまた別物なのです。