Gerber Legendary Blades 6009 LST
デザイン/ブラッキー・コリンズ
以前、こちらのブログで米国 Gerber社の【LST】というフォールディングナイフについて書かせてもらいました。【 LST 】は ライト・スムース・タフの略。Gerber がクラシックシリーズとして販売していたロックバック式フォールダーに積層素材のマイカルタをハンドル材とした初期 LST を販売したのが1980年初頭。ベンチマーク社のブラッキーコリンズのデザインです。それから間もなく発売されたのが現行品の原型、ザイテル製のワンピースハンドルを持った今と変わらぬデザインの物です。
1990年代の大阪でわたしは二本の【LST】を日常的に使っておりました。一本は赤いザイテル製ハンドルに粗末な樹脂製のポケットクリップが付属したモデルで、もう一本は同じザイテル製ハンドルでもカムフラージュ柄のものでした。しかし、いつの間にやらその二本とも失くしてしまいました。当時数年おきに引越しを繰り返していたその過程で荷物に紛れ込み紛失したのかもしれません。二本の LST を失くしてから十数年が経ち、3度目の正直とばかりに現行品の【LST】を仕入れたのは2018年のこと。それについてはこちらのブログ『帰ってきた GERBER LST 』で書かせてもらいました。
さてさて、今回米国からの取り寄せで4 度目の購入となった Gerber【LST】は1980年代〜1990年代初頭(ディーラーの説明には80年代とありましたが)に製造されたもので、昨年3度目の正直で買った現行品とは細部がかなり違っております。90年代に大阪で使っていたモデルは今回の物と現行品の中間的モデル。LST にもモデルチェンジの歴史があるのです。ちなみに80年代に発売された最初期の LST はハンドル材がマイカルタ(積層素材)で左右からはさみ込むタイプでした。
どこかの店の棚、倉庫に置かれたままであったことを思わせる古びた箱。そこから出てきた Legendary Blade は一度も使われたことのないデッドストック。
先人たちのブログでは Gerber の化粧箱がオレンジ色になったのは1979年となっております。その後フィンランドの FISKARS に社を売却した1987年より青箱となったそうで、ちなみに現行品は黒箱でかなり簡素化された仕様です。
*現行品の簡素化された黒箱、なんだかスーパーの棚に並んでそう、、そこそこ!このキレモノはそんな日用品的刃物であったはずです。
実はわたし、このオレンジ箱もその後の青箱も見覚えがあります。わたしが仕事としてキレモノを販売する側にいた頃に何度も手にして見ていたからです。勿論、当時は80年代90年代のものが後にビンテージ扱いされるとは思ってもいませんでしたが。
以後は今回紹介する90年代初頭のLSTをオールド(そう呼ぶには時代が新しいけど)、昨年購入した方を現行品と呼ぶことにします。
中にはこんな折り込みが入っていました。そこに写っている Gerber のキレモノはどれも今や廃盤品。ビンテージとか、オールドガーバーなどと言われてあの頃よりもずっと高い値段でやり取りされています。改めてファンが多いのだなぁ〜と感心しきり。
【 LST 】について書かれたものも入っておりました。なにか、顧客に対するきちんとした姿勢や自信の様なものを感じます。
上の解説書を Google 翻訳のカメラスキャンにかけてみると、、、うーむ、もう一歩な訳ですが何を言いたいのかはわかります。
現行品との違いで一番目を引くのはブレードです。
右が現行品です。左は30年近く前の LSTです。違いますね〜。タングと呼ばれるブレードの根元からカッティングエッジにかけての滑らかなラインはこの頃まで。その後は右の現行品の様なシェイプに変わりました。チラリと見えるハンドルのチェッカー(滑り止め)のパターン(細かさ)もかなり違いますね。
ブレード右面。左がオールド、右が現行品
ブレード先端部(ポイント)はオールドの方がやや薄く鋭利です。
1・2 はオールド、3・4 が現行品
オールドの方は刻印(彫ってある)
現行品はエッチングですかね
ハンドルは デュポン社の【 Zytel® 】ザイテルというガラス強化されたワンピース構造のナイロン樹脂。どちらも質感は同じですが滑り止めのチェッカーの目の細かさが違います。わたしは現行品の方が好きです。手にしてみると現行品の方が滑り止めの効果があるのがわかります。オールドはなにかオモチャぽく感じます。
ココもちゃうね。
違う箇所といえばココも。ブレードとロックバーとの合わせ目。左のオールドは左右にズレがあるが合わせ目の高さは平面。右の現行品は左右のズレは無いが合わせ目をはっきり(造り的には簡素化)させた造りです。この部分の仕上げも現行品はブレードと同じ仕上げ。オールドはブレードとロックバーの上面のみポリッシュ仕上げ。
手前がオールド、奥が現行品。現行品はブレードの背は滑らかに面取りされてあります。対するオールドはキリッとエッジが立った仕上がり。
左がオールド、右が現行品。ブレードをハーフストップで止めてみると、ロックバーの出方がずいぶん違います。現行品の方がわずかにメリハリのあるアクションと感じるのはこの辺の造りに要因があるのかも。
キックと呼ばれる凸を比べてみると、カッティングエッジの付け根が全く違います。エッジ(研がれてある面)は現行品(手前)の方が長く、オールドは実際に切れるエッジは根本からかなり先からです。研ぎ直してエッジを後ろまでもってきた個人のモデルを何度か目にしましたが、実用とは別に見た目がガラリと変わってしまいます。このままがいいかな。
大きな違いはココにも。ブレードを起こすために爪を引っ掛ける溝・ネイルマークの有無です。ネイルマークのある方がオールド。しかし、LST はネイルマークがあっても無くても楽々ブレードが起こせます。だからか、現行品にはネイルマークは設けられていません。
現行品には尻尾を付けてあるけど重さは殆ど同じ。
この二本を扱ってみた感じは殆ど同じです。約30年の開きがあるモデルですがウリであるブレード開閉の軽快さも全く変わりません。殆どとは、現行品の方が僅かにロックスプリングが強い感じがします。ただ、これは本当に《わずか》の差で感覚的なものなのかもしれません。あとは、、音色。オールドの方がブレードを開き切った時の音色が微かな金属音が混じって美しいと感じます。
さて、今やビンテージ扱いされる今回の【LST】をどうするのか?
わたしはコレクターやないから遠慮なく使いまっせ〜!これ昔から変わらぬアタシの『使ってナンボ主義』『使ってマンボ♪』の精神ですたい!その方が ジョセフ & ピート・ガーバーさんもお喜びでしょう(勝手にそう思ってます〜)。箱は、、暫くは残しておくでしょうが、たぶん捨ててしまうでしょうね。アタシそんな性分なのです。
ponio
ふと、若い頃にこのフォールダーでやっていたブレードの振り出しをやってみた。これはハンドル後端を挟むように持ちロックリリースを人差し指で押し込みながらブレードを下に振り出します。そのまま手首をスナップさせてブレードを開き切ります。いわゆるワンハンドオープン。オールドモデルはこれが出来ます。現行品はスプリングの反発が強くこのやり方ではワンハンドオープンは出来ません。ブレードを摘むように挟みハンドルを振り下ろすやり方ではワンハンドでオープン出来ます。
超個人的な思い入れから買い求めた二本のフォールダー。今回は90年台初頭に作られたとみられるデッドストック品を紹介しました。たった30年前のものがビンテージといわれる現実、言葉の響きだけでは昔のものを指すビンテージの方が価値があって造りも素晴らしい、、と思いきやそれまた現実は違います。このLSTに関して言えば造りそのものは現行品の方が均一です。ビンテージと言っても大量生産品です。そこへ人の手が加わるからバラツキ、個体差が生まれます。90年代の米国製のマスプロ品はお世辞にも均一な仕上がりとは言えませんでした。今回の LST も左右非対称で粗削りな部分が残っています。しかし、これらは日常生活の中に溶け込むほど手元に置いて使う日用品的フォールダーです、使いやすく毎日使っても精度が狂わない、それだけあれば十分なのです。
2021年 春
ワタシにとって通算5本目の LST を手に入れました。90年代の中期から使い続けていつの間にやら消えて失くなっていた赤い LST です。勿論、コレクターでもなく売買目的でもないワタシにとってはまさしく日用品。届いたその日から研ぎ直され使われております。
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