アメリカンなナイフ

ponio

2017年01月31日 17:11



ここに二本のキレモノ有り。
頑強だけど不器用でハードに使えるけれど繊細さがない。そんなアメリカンなナイフ。




上は ONTARIO RAT-3
下が ESEE IZULA 2



叩くことを意識して造られた様な分厚いブレードの峰

二つのナイフは共にフィクストブレードである。一枚の鋼材を左右からハンドル材でサンドイッチしているだけのシンプルなナイフだ。鋼材は炭素鋼1095。ブレードのシェイプはフラット、錆びなどの腐食防止の為にコーティングが施されている。



頭から尻尾までギュッと鋼材が詰まったフルタングと呼ばれる造りで、ハンドル材はマイカルタと呼ばれる積層素材、リネンや紙などをフェノール樹脂を浸潤させて積層圧着した丈夫な素材だ。


RAT-3は樹脂製のシース(ケース)とTECH-LOCKと呼ばれるベルトなどに取り付ける為のアタッチメントとベルトクリップが付属する。ただいずれも使いにくい。ナイフを差し込むとシースがわずかに開き完全に差し込まれると同時にカチッと閉じて固定される。ナイフを引き抜く時はハンドルを握った手の親指でシースを押しながらナイフを引き抜く。

IZULA 2のシースも樹脂製。これも差し込むとわずかに開き最後まで押し込むとパチっと閉じて固定される。このシースは550パラコードなどを使いベルトなどに取り付けられるが写真の様にネックナイフとしても使える。これも親指でシースを押しながらナイフを引き抜くやり方だがネックナイフとしてぶら下げている場合はそのまま下に引っ張ってナイフを引き抜く。



どちらも真っ平らなフラットブレードとフルタング構造、鋼材も同じとくりゃ〜使った感じもほとんど同じである。サイズの違いから細かなコントロール性はIZULA、バトニングなどの叩き技はRAT-3が有利だがそれほど大差はない。


新品の状態ではIZULAの方が鋭利な刃付けがされてあり、RAT-3は簡単な研ぎ直しが必要だった。これはそのまま2つのメーカーの差でもある。


メーカーとしてはONTARIOの方が老舗と呼ばれるほど歴史があり米軍の官給品(空軍のサバイバルナイフ等)などの生産で有名だ。ESEEの方は2010年頃から始まる比較的新しいブランドであり元はRATなるナイフメーカー。今回取り上げたこの二つのナイフは実に良く似ている。それもそのはず、この二つのキレモノは根っこが同じ。ONTARIO社のRATシリーズもESEEブランドのナイフシリーズも同じ人間のプロデュース作品だから。例えばONTARIO社のRAT-3はESEEブランドではRC-3(現 Model 3)と呼ばれ、ただしハンドルサイズやコーティングなど細部が異なっている。新品の状態で刃付けが鋭利だったのはESEEの方だったし品質はESEEの方が上かな。


一方、新品の状態では今ひとつ切れ味が良くなかったONTARIO社のRAT-3。バトニングなどの叩き技には使えたけど鋭利な切れ味からは程遠く研ぎ直しが必要だった。今は耐水ペーパーを使ってハマグリ刃風のナンチャッテ・コンベックスグラインドに仕上げてある。結果、IZULAより繊細な切れ味となった。

クルクルカールも新品のうちは全然作れなかったRAT-3 も刃付けを変えた途端に気持ちの良いタッチになった。


頂き物のクロを奥さんが捌く。うちの奥さんが長年使ってきた小出刃の柄が取れて使えなくなったので刃厚のあるRAT-3で代用した。


小出刃は片刃でRAT-3は両刃、ブレードのデザインも全く違う。切れ味は当然小出刃の方が上だが慣れたらこれでもやれる。骨までガリっと切ったがエッジには目立ったダメージもなく使った後は油を引いておいたので錆も出ていない。

ある年の暮れに奥さんの田舎で行われた餅つきに呼ばれた。姉の家の裏に据えられた二つのカマドに薪を焼べて煙で燻されながら日がな一日火の番をやらせてもらった。それで沸かしたお湯で餅米を蒸すのだ。裏山で切ったり拾ったりしてきた松や楠の枝をガンガン焼べる。中には生木に近いもあって手斧とIZULAでそれらを燃えやすいサイズに叩き割って燃やした。その日は早朝から夕方まで半端ない使われ方で終わり頃にはハンドルのスクリューが緩んでいた。


ある日の仕事。二階建ての納屋の屋根まで伸びたチョウセンアサガオの伐採処理を頼まれた。二本のノコで枝打ちして細かな枝はギアプルーナーで切った。チョウセンアサガオの枝や幹は水分を多く含んだ比較的柔らかな木質だ。可燃物としてゴミ袋に入れなければならず、切った幹まで細かくする必要があったのでRAT-3でバトニング。

チョウセンアサガオを細かくバラした四銃士。


MORAなどの北欧系ナイフを使った後ではフラットグラインドのアメリカンナイフの不器用さを痛感する。特に木材に対するタッチは北欧系のスカンジナビアグラインドが気持ちよく削れるのに対してこの二つのナイフは《ゴリゴリ》《カリカリ》と固く余計な力が要る。

RATもIZULAもゾッとする切れ味でもないかわりに刃こぼれなどに対して神経質にならなくて済む。タフでガンガン使えるキレモノと言える。フェザースティックと呼ばれるカールを作ると北欧系のナイフは柔らかなブロンドでRATやIZULAで作るとチリチリの硬い髪となる。

これらのナイフとそのシリーズは一本のナイフに無理やり多くの作業をやらせようとするアメリカらしい合理性が伝わってくるキレモノたちだ。木を削ったり割ったり肉や魚を捌き格闘にも使える。本来なら斧やノコやフィレナイフや包丁がやる仕事までを何でもやらせようとした作りなのだ。そこに求められるのはアメリカ人が好きそうな《サバイバル》的シチュエーションへの対応力だ。タフでなければならない、一本のナイフで多くの作業をこなせなければならない、そんな意気込み。良い意味でも悪い意味でもこれらはそんなキレモノなのだ。


二本のナイフと同じフルタング構造のナイフ。
ENZO95 Trapper には鋼材とブレードシェイプの差によるいくつかのバリエーションがある。私のは 北欧らしいScandi シェイプ。同じフルタングのシースナイフでも木材に対しては上の二本のナイフとは全く別次元の切れ味だ。ただし、その刃付けは新品の状態ではかなり繊細でバトニングの様な本来ナイフが負うべきでない荒っぽい使い方ではベベルと呼ばれる細かなエッジが見事に潰れてしまう。何度か使用と研ぎ直しを繰り返して今では繊細過ぎないベベルにしてあるが切れ味は変わらない。それでもどこか遠慮気味に使ってしまうのはやはり何処か不安があるからなのかな?と自己分析。




RAT-3 も IZULA もどちらもかなりハードな使われ方をしてきたキレモノです。使って研いで使って首を傾げてまた研ぎ直す。そうやって今はなんとか《まあまあ》な切れ味になりました。でもね剃刀のような切れ味は脆さと紙一重だから《ほどほど》でよいのかもしれないね。

ただ、これだけは言える。
この二本、多分だけど壊れない。
多分だけど使い続ける。
そして多分だけど好きなんだと思う。
不器用でもね。



遠慮なく使える、それが一番。



2023年 合いも変わらず酷使されていますが切れ味はスーパーシャープです。

可愛いけれど頼りになります。


2017 遥か異国の国、北欧、ムーミンの国から一本のシースナイフが日本に向かって発送されたらしい。ヘルシンキにある国際郵便の中継局に届いたとステータスに進展があったのは昨日のこと。北欧から届く予定のナイフといってもそれは北欧のナイフに非ず。ただ、それをオーダーした先がフィンランドの通販会社だっただけだ。
ナイフは 自身初となる《イタリアンなナイフ》。目的は同じハードユースでも今回書かせてもらったアメリカンなナイフとは《装い》がまるで違うのはやはりお国柄なのか?いつものことだけど、新しい物(ブツ)は届くまでがワクワクするね。アメリカの荒馬とイタリアの種馬さあどちらがタフかな?







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